安田隆夫さん。「運を呼ぶ合理性を活かす上での前提条件がある。『攻め』と『挑戦』と『楽観主義』の姿勢である、私はこれらを『運の三大条件』と呼んでいる。不確実極まりない現代においては、リスクをとろうがとるまいが、思わぬ幸運や不運はそれなりにやってくる。リスクを恐れて守りに入る人に、運が付かないのは自明の理だ。とりわけ今のような時代は『リスクをとらないのが一番のリスク』である。後から『逃がした魚は大きい』などと言って悔やむ人がいるが、安易で陳腐な手法に逃げ込んでしまった自分自身の姿勢をこそ戒めるべきなのである。ただ、頭がよくて優秀な人ほど、リスクをとるのは難しいようだ。リスクをとるためには、攻めの姿勢を保ち続けることが重要だ。基本的に『守備七割/攻撃三割』といった配分を自らの黄金比として設定している」運。
逆転の機会を狙う
安田隆夫さん。「『幸福の最大化』で十分な蓄えが出来ていれば、穴倉にずっと籠っている間も食料に困ることはなく、わざわざ危険な狩りに出かける必要もない。もちろん、穴熊籠りの間は、『待てば何とかなるだろう』などとのんびりと構えていてはならない。うたた寝するなど言語道断である。そうではなく、穴の外で起きていることを、全神経を集中してずっと観察しながら、脳が擦り切れるくらい、考えに考え抜かなければならない。”春”が巡ってきたらどのように行動するか、あらゆるシミュレーションを行い、逆転の機会を虎視眈々と狙うのだ。私の場合、穴倉にいる時ほど大脳皮質が活発化している時はない。脳をフル回転させていると、次の幸運到来に対する感受性アンテナの感度が高まり、運の変わり目(好機)を絶対に見逃さないようになる」かわりめ。
アナグマ戦法
安田隆夫さん。「『どうも運に見放されつつあるようだ』と感じる不運の時期がやってきたら、とにかく熊の冬眠よろしく穴倉に籠るようにして、ひたすらじっと動かずに不運が通り過ぎるのを待つ。この緊急回避策を私は『アナグマ戦法』と名付けていて、とりわけ個運に関しては徹底してアナグマ戦法を貫いている。運のいい時は思いっきりビットを張って勝負にいくべきである。しかし、明らかに運のない時、もしくはどちらか分からないような時は、じっと耐えて何もせず、ひたすら守りに徹するのが得策だ。このメリハリと使い分けが、私の人生とビジネスにおける最大の成功ノウハウになったと思っている。やってはいけないのが、『不運の時の悪あがき』である。不運を打開しようと全精力を集中すると、せっかく幸運が訪れた時に力を出しきれないケースも多い」穴熊。
幸運の最大化こそ
安田隆夫さん。「不運の最小化は幸運の最大化によって可能になるということだ。すなわち、『幸運の最大化』こそが、運をコントロールする第一歩となるのだ。もう少しわかりやすく説明しよう。幸運が巡ってきた時に、運をとことん使い切って、目一杯の果実を収穫しておく。それを不運が巡ってきた際の備えとしてキープし、頑丈なセーフティネットを築いておく。そうすれば、向かい風が吹いてきても十分耐え忍べるため、気持ちに余裕をもって不運の最小化ができるというわけだ。ドン・キホーテも運が巡ってきている時は、人気店を量産するなど、エンジンを目一杯にふかして、せっせと『幸運の最大化』に励んでいた。そうして体力を養ったからこそ、コストがかかる環境問題の対応にもきちんと取り組め、不運を最小化することが出来たわけである」なるほどね。
運を使い切る
安田隆夫さん。「私のように、果敢な挑戦を数多くし続けてきた創業経営者は、沢山の幸運に恵まれる一方、それと同じくらい沢山の不運に遭遇するものだ。プロの登山家が色んな難所に挑戦すればするほど、遭難のリスクが増えるのと同じである。また、幸運と不運のボラティリティも極めて大きいため、大きな成功の果実を得る一方で、命に危険が迫るような大災難に見舞われることもある。経験した不運が大きければ大きいほど、訪れる幸運は不運に“反比例”して大きなものとなる可能性が高い。そういう時は、まさに『得手に帆を揚げる(特異な技を発揮できる好機が到来し、調子に乗って事を行うこと)』ようにして、エンジン全開で思い切りレバレッジをかけ、その幸運を一気呵成に増幅させなければならない。『運を使い切る』ことに全力を注ぐのだ」禍福はあざなえる。
不運の最小化
安田隆夫さん。「では幸運と不運が巡ってきた時、私たちはそれぞれにどう対峙すべきだろうか。結論から言えば、『幸運の最大化と不運の最小化』が最良の方策だろう。つまり、幸運が訪れた時はいかにその幸福を最大化するか、不運が訪れた時はいかにその不運を最小化するかが、運の総量をコントロールする秘訣である。えてして人は不運な時に一生懸命もがいて、なんとか自分の受けた損失をカバーしようとする。だが、下手に動くと傷口はさらに広がるものだ。だからこそ不運が訪れた時は、いかにそれを最小化するかということに心を砕かなければならない。少なくとも私は、不運な時は下手に動かず、自己抑制して何もしないようにしている。そうして不運(ピンチ)をしのげば、その後に幸運(チャンス)がやってくる」ピンチの時には、じたばたせずにしのぐこと。
運の『実在感』
安田隆夫さん。「『何かをやってやろう』という意欲を心の中に充満させた状態でアンテナを立てればこそ、幸運も、不運も敏感に察知することが可能となるのだ。もっとも、アンテナもレーダーも、それを駆動させる電源が入っていなければ何の意味もなさない。その電源の役割を果たすのが、自己の中に備わる(あるいは育てた)運の『実在感』である。運というのが捉えどころのない幻のようなものではなく、確かなものとして実在すると感じることが必要なのだ。自分の行く末は常に運と共にあると認識する、つまり『運を信じる力』と言おうか。この運の実在感が全ての根源である。次に大事なことは、未来に希望を持つ『楽観論者』のほうが運に恵まれるということだ。逆に、悲観論者には運はやってこない。楽観論者のほうが悲観論者よりも圧倒的に勝率が高い」楽観。