一身にして二世を生きる

nakatomimoka2011-04-10

内田樹さん。「ある種の『弱さ』ゆえに、坂を転げ落ちるように破滅する非現実的に魅力的な主人公の相貌を、傍観者である語り手が物語るという構造になっています。宿命的に滅びてゆく弱く魅力的な青年は主人公の『アルターエゴ』です。彼と決別しなければ、主人公は成熟への歴程を進むことはできない。けれども、それはアドレッセンスの記憶のうちに置き去るにはあまりに魅力的である。それゆえ、主人公は『死んだ青年』の思い出を自分の身体の中に刻み込んだまま、いわば『一身にして二世を生きる』かのように成熟の旅程を前に進んでゆくことになる。というより、成熟というのは己の未成熟を愛し、受け入れ、それを自分の中に抱え込んだまま老けていけるような人格的多面性のことなのだというのが、根源的なメッセージなのかもしれません」ライ麦。Photo:[泰]