さしあげる基準

山口瞳さんが、「時計の話」というエッセイの中でこう書いておられる。「人様にさしあげて、惜しいと思うような、あとで後悔するようなものでなければさしあげてはいけないと教えてくださったのは高橋義孝先生である。そうして、私の最初の鉄道時計は、先生にいただいたものである。」山口さんは、自分の懐中時計もあげてしまうのだが、「人様に差し上げるときに、あ、惜しいな、あ、痛いなと、と感ずる値段であり、そうでなければ、さしあげる意味がない。」とも書いておられる。これを読んだからということもあって、最近手に入れた時計をある方に差し上げた。すぐに腕にはめていただいたとき、あ、惜しいなと瞬間思ったが、そのあたりがちょうどよいのであろう。