無所属の時間(1)

nakatomimoka2015-09-11

城山三郎さん。「石坂泰三を調べていて、幾日か出張するとき、空白の一日を日程に組み込んでいることに私は注目した。旅先で好奇心の湧いた場所や人を訪ねるためもあるが、ただ風景の中に浸っていたり、街や浜辺を散歩したり。日本でいちばん忙しい男であるはずの時期でも、そうであった。その空白の一日、石坂は二百とか三百とかの肩書をふるい落とし、どこにも関係のない、どこにも属さない一人の人間として過ごした。私はそれを『無所属の時間』と呼んだ。そこには、真新しい時間、いつもとちがうみずみずしい時間があり、子供に戻ったような軽い興奮さえ湧く。おそらく、それが人間をよみがえらせるきっかけの時間となるからであろう。無所属の時間とは、人間を人間としてよみがえらせ、より大きく育て上げる時間ということではないだろうか」そんな時を。