安住安楽が悪の根源

行徳哲男さん「キェルケゴールは裕福な家の育ちですが、父親が家政婦を手籠めにして産ませた子供でした。さらに、生まれながら脊椎の病気を煩い、屈折した青春時代を送りました。心配した父親は、彼をデンマーク郊外のジーランドという湖の畔に転地させました。そこには野性の鴨が飛んでくるのですが、鴨たちはおいしい餌に飼い慣らされて次第に飛ぶ力を失ってしまうのです。それを見たキュルケゴールは『安住安楽こそがすべての悪の根源だ』と言いました。ゲーテの言った『安住安楽は悪魔の褥』と同じです。戦後の日本人も経済の豊かさと平和に酔い痴れて安住安楽を貪ってきましたが、キュルケゴールはそういう生き方を厳しく攻撃し、飼い慣らされた太ったアヒルになるなと警告したのです」安住安楽を目指してしまいそうになるけれど、そうではなくて。