小説の要件

nakatomimoka2016-01-09

島田雅彦さん。「私たちは、今日出版されているフィクションのほとんどを、便宜上、小説として受け取っていますが、そのじつ、小説になり切っていないものが大半です。自己陶酔しか感じられない小説は、ロマンスと分類されるべきなのだから。恋愛にせよ、冒険にせよ、パターンをただ踏襲しているだけのもの。たとえば、この『わたし』の輝ける女性遍歴とか、飼っていた犬との懐かしい日々の回想といった、自分の経験に基づくとっておきの出来事を、自分を主人公にして描いたとしたら……。これらはたいてい、当人は小説のつもりであっても、ロマンスなのです。しかし、主人公のなかに苦い自己認識があり、第三者の目から見れば自分の行動がいかに滑稽かを暴く批評意識が織り込まれていたならば、それは小説の仲間であるとみなすことができるでしょう」自己批評。