あなたという二人称を用いる

イーサン・クロスさん。「夫の死後、サンドバークは自分を飲み込もうとする悲しみの荒波に耐える方法を探し、自分の経験していることを日記につけはじめた。これは理に適った選択肢だ。知っての通り、心のありのままを書く筆記開示は有用な心理的距離を確保するための効果的な手段だからである。だが、彼女は興味深いことも行った。考えられる限り最も辛い個人的な経験の一つについて、それを語るのに最も自然な言葉である『私』をつかわずに書いているのだ。代わりに、彼女は『あなた』という言葉に頼っている。私たちは、これが心理的な距離を築くためのもう一つの言語的技術であることを発見した」島田雅彦さんは『君が異端だった頃』で、『一人称で書く恥ずかしさには耐えられず、私事を他人事と突き放した』と、君という二人称を使っている。