知らなかったことを書く

 井上荒野さん。「面白いかどうかは、まずは『自分にとって』である。自分にとって面白いとはどういうことか。それは私の場合、『自分がそれまで知らなかったこと』を書く、ということだ。知識というよりは感覚や感情であることが多い。今まで見えなかったものが見えた時。同じ場所なのに違う場所のように感じられた時。ずっと眠っていた記憶。思いがけない嬉しさや悲しさや淋しさ。不意に自分の中に生まれた、世界というものへの新たな認識。既に知っていることは、いくら上手に書いてもつまらない。エッセイに限らず、小説でもそうだ。理想を言えば、知らないことを『知った』という報告ではなくて、この世の謎、自分自身の謎に近づいていく過程を書いていたいと思っているし、そのような書き方をしている時が結局、私は一番面白いのだ」そうか。