五木寛之さん。「人間の傷を癒す言葉には二つあります。ひとつは『励まし』であり、ひとつは『慰め』です。人間はまだ立ち上がれる余力と気力があるときに励まされると、ふたたびつよく立ち上がることができる。ところが、もう立ち上がれない、自分はもう駄目だと覚悟してしまった人間には、励ましの言葉など上滑りしていくだけです。『がんばれ』という言葉は戦中・戦後の言葉です。私たちはこの五十年間、ずっと『がんばれ、がんばれ』と言われつづけてきた。しかし、がんばれと言われれば言われるほどつらくなる状況もある。そのときに大事なことはなにか。それは『励まし』ではなく『慰め』であり、もっといえば、慈悲の『悲』という言葉です。『悲』はサンクスリットで、『カルナー』といい、ため息、呻き声のことです」がんばれといわずに、支えになれれば。