自分自身を喪失して

為末大さん。「近いなと思っているのが、宗教的な行為です。インドネシアの伝統舞踊ケチャとか、スペインの舞踏や古い宗教の中には、集団で人間を囲み、その一人が踊りに没頭していくようなものがあります。一人で踊っている人間がだんだんトランス状態に入って、自分自身を失って行為だけになっていく。人が、その人間という『器』から抜け出て、自分自身を喪失して、集団の中で踊りという行為だけになっていくことが、僕には、自分が競技をやっている時の感覚に近いように思われます。僕の大好きな話を紹介したいと思います。2000年、シドニーオリンピック女子400メートルで金メダルを取った地元オーストラリアのキャシー・フリーマン選手のレースです。僕は初めて、ほとんど自我を喪失した状態で走っている人を見たような気がします」自我を喪失。