時代の雰囲気

池澤夏樹さん。「では、振り返ってみて、これはどういう時代だったか。いちばん大事なのは、この60年間、日本は戦争をしなかったということだ。明治維新の後で、これほど長く続いた平和はなかった。日本の兵士は他国の軍人や民間人を殺さなかったし、その逆もなかった。また、公然と武器を輸出することもせずにここまで来た。その間に、日本は貧しい国から豊かな国になり、日本人は勤勉に働き続けたあげく、やがて働くことの意味を見失った。前の時代に強気になって撃って出て失敗し、それに懲りて今度はひたすらおとなしく、一種鎖国的な気分の中で、ただ黙々と働いたんだね。そして、少し遊んだ。だからこの60年は、時代の雰囲気として比べれば、明治や大正よりもむしろ江戸時代に似ていたかもしれない。」少し遊んだころから働き始めた身としては。