おもいによって

若松英輔さん。「長年の願いが叶ったのに、あまり喜びを感じなかった。そんな経験は多くの人にあるのではないだろうか。その一方で、起こった時はさほど感じなかったが、時間を経るたびに喜びが深まってくる、という場合もあるだろう。願いにはさまざまな姿がある。悲願、哀願、念願という表現もある。念願がかなって、という言葉にふれる機会は少なくない。私もある時までは、この言葉にさほど関心を寄せておらず、深い意図もなく口にしていた。今は、この一語から離れることはない。『念』の文字との関係が一変したのは、『念い』と書いて『おもい』と読むのを知った時だった。本を読むにせよ、文章を書くにせよ、その核心にあるのは人の『おもい』である。読み、書くことだけではない。話し、聞くことにおいても『おもい』によって人は繋がっている」念。