逆転世界の宝石

nakatomimoka2010-08-22

穂村弘さん。「日常の会話の中に不意に投げ込まれた『桃色の虫』は、まさに、『不用』『役に立たない』『なくても困らない』の塊であり、だからこそ、逆転世界の宝石なのだ。私はレイモンド・チャンドラーの作品を読み漁った。どの物語も一見『生き延びる』ための世界を忠実に描いているようにみえて、その最中に突然、もうひとつの世界が現れる。それが見えない読者には何度読んでも『何をいってるのか、わからなかった』だろう。でも、私にはわかる。わかるのだ。全長篇に共通の主人公『フィリップ・マーロウ』は、皆と同じように『生き延びる』努力をしながら、同時にもうひとつの世界を生きている。日常のやり取りの中で、その口から不意に裏返しの宝石のような言葉が零れるとき、彼こそは逆転世界の使者なのだ」我にとって、『生きている資格』とは何ぞや。